昨今の邦画界は、血の滾る様なアクション映画豊作期に突入している。
それら『アクション映画』を裏からも表からも支えているのは、「アクション監督」と呼ばれるアクションシーンを引っ張る存在と、現場で体も頭脳もフル回転させる「スタントマン・スタントウーマン」たち。更にテレビ、舞台、ゲームとアクションに関わる者たちの活躍の場はとてつもなく広く、ポジションや職務も多岐に渡る。
普段は撮影現場という戦場に身を置き、その姿や言葉を公に晒(さら)す機会はあまり多くない。そんな国内外の第一線で活躍するアクション監督や殺陣師・スタントコーディネーターたちが発起人となり、アクション製作に関わる全てのクリエイターの為の団体「JAPAN ACTION GUILD(ジャパン・アクション・ギルド)」が2021年初頭に発足。
「るろうに剣心」シリーズのアクション監督であり、ドニー・イェン主演の監督作「燃えよデブゴン TOKYO MISSION」が全国公開になったばかりの谷垣健治氏が、今回の発起人の一人として「JAPAN ACTION GUILD」発足への想いを語る。
―――この度発足された「JAPAN ACTION GUILD」とは一体どんな団体なんでしょうか?
谷垣:「JAPAN ACTION GUILD(ジャパン・アクション・ギルド)」が団体の正式名称で、略して「JAG(ジャグ)」と呼んでいます。実は、日本俳優連合にも「アクション部会」という、アクションに関わる人達の地位向上や待遇改善などを目標とした活動団体が既に存在しています。ちなみに僕が委員長です(笑)。ただ「アクション部会」は協同組合であるが故に出来ることもあれば、自由に動けないことも数多くあるんですよ。アクション業界の未来を考えた時に、より自由に活動できる団体が必要だと考え、今回の立ち上げに至りました。予定している活動は色々ありますが、大きな意味で言うなら「各団体や個人が協力し合い、アクションの魅力を周知させる」ことを目標とした団体ですね。具体的にいうと、アクションアワードのリニューアル、アクションの超専門的動画チャンネル開設、そしてスタントマンやアクションに関わるスタッフたちの労働条件の交渉とかね・・・まあ、まずはアクション業界が団結すること、話はそこからじゃないかとは思いますけど。
―――「JAG」設立のきっかけ、理由とは?
谷垣:年に一度「アクション部会」が先頭に立って「ジャパン・アクション・アワード(※)」も開催して来たのですが、数年前からは独立採算制で「アクション部会」が属する日本俳優連合とも切り離されているイベントになっていたんですよ。それをもっと自由に、エンターテイメント性に特化したアワードに生まれ変わらせたいと考えたのもきっかけのひとつです。
そして最も強固な理由になったのは、映画撮影現場やテレビ、舞台、ショー、モーションキャプチャーなど、今実際に現場に出ているアクション関係者の声が届く、“リアリティのある団体”にしたかったことですね。アクションを生業(なりわい)としている人たちが、より集まり易いプラットフォームを作りたいと思ったんです。一言で“アクションを生業にしてる人”と言っても、実際にはアクションチームの数だけやり方もイデオロギー(思想)も違う。それでも「一度このJAGという枠組みの中に集まって、お互いに行き来して協力し合いませんか?アクションが好きな人間に悪い人間はいませんから(笑)」っていう。
(※)ジャパン・アクション・アワード
2012年から始まった映画・テレビドラマの、アクション作品・俳優・スタッフを対象とした賞。一般投票と審査員によって各部門別に優秀賞・最優秀賞が選出される。
―――では、次回(2021年開催)の「ジャパン・アクション・アワード」も大きく変わると期待しても良いのでしょうか?
先ほども少し話したのですが、「アクション部会」は協同組合であるために経済活動が出来ないことが大きなデメリットになっていました。僕も金馬奨(きんばしょう・中華圏を代表する映画賞)などの各種映画祭に参加してきましたが、彼らの様にやはりスポンサーを付けてたくさんの人で運営していかないと難しいと思いました。今後も単独の資金で「アクション・アワード」を開催し続けていくと、近く限界が来てしまうと思うんですよ(苦笑)。開催に当たって、人を呼んだり、動いてもらったり、映像の使用許可取ったり、会場を押さえたり編集したり……。僕たちがアワード開催をメインの仕事として出来れば良いのかも知れないけど、それぞれ本当のフィールドは撮影現場なわけです。そうすると、人を動かすしかない、人に動いて貰うにも資金は必要になります。でも、僕たちがこうして厳しい予算の中で苦労して「アクション・アワード」を開催してきた現実があっても、応援して下さったり楽しみにしていて下さるお客さんには「知ったこっちゃない!」ですよね(苦笑)。こちらも「予算が・・・」なんて言い訳、したくもないし(笑)。なのでJAG主催のアワードになることによって、制作の自由度も増すといいなと。お客さんもアクション関係者も含め「みんなが望むアクション・アワード」にしたいと思っています。構想だけはいっぱいあるので(笑)、楽しみにしていて下さい!
この日、谷垣自らホワイトボードに向かってペンを取り、「JAPAN ACTION GUILD」について熱い口調で説明をしてくれた。スタントマン・スタントウーマン達は間違いなく“クリエイター”であり“職人”だ。誰一人として全く同じバックボーンや考えを持つものは居ない。だからこそ個人が、または各団体が、強烈なクリエイティビティ(独創性)を放つことで多くの名アクションシーンが生まれ、私たち観客は息をするのも忘れ圧倒されるのだ。
谷垣の言う通り、アクション業界がイデオロギーもヒエラルキーも越えたところで融合してゆく作業は、今日明日出来ることではないと思う。道程は険しくもあるだろう。
でも、嬉々としてアクションの面白さ、そしてJAGのこれからの可能性を語る姿に、私は希望しか感じなかった。
そして、この取材当日に谷垣が着用していたTシャツに書かれていた文字は
「Bruce& Jackie& Jet& Donnie.」だ。
この連なる名前の神々しさよ……!!
谷垣健治のオススメ映画関係書籍三選
①「複眼の映像」橋本忍著(文春文庫)
「羅生門」「七人の侍」「砂の器」などの脚本家、橋本忍の自伝的内容で、中でも黒澤明との共同作業の様子が圧倒的な記憶力とともに描かれている。
②「中国魅録」―『鬼が来た!』撮影日記 香川照之著(キネマ旬報社)
チアン・ウェン監督の「鬼が来た!」という中国映画に参加した俳優、香川照之の日記と回想録。中国の狂気の現場で日々生き抜く様子がひたすら面白い。
③「功夫的秘密 動作導演的芸術」翻訳版未発売
香港のアクション監督がどういうアプローチでアクション映画を作っていくのか? ジャッキーをはじめ、サモ・ハン、ユエン・ウーピン、チン・シウトン、ツイ・ハークなどのインタビューと作品分析が興味深い。